生命保険や年金も相続税の課税対象?みなし相続財産と相続税の計算

民法上は相続財産でなくても、相続税の計算にあたって相続財産としなければならないものを「みなし相続財産」といいます。みなし相続財産とはそもそもどんなものをいうのでしょうか、相続税の計 … 続きを読む 生命保険や年金も相続税の課税対象?みなし相続財産と相続税の計算

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民法上は相続財産でなくても、相続税の計算にあたって相続財産としなければならないものを「みなし相続財産」といいます。みなし相続財産とはそもそもどんなものをいうのでしょうか、相続税の計算はどうなるのか、みなし相続財産と相続税の関係を解説します。

みなし相続財産とはなに?

みなし相続財産とは、民法上は相続財産とはならないものの、相続税の課税対象となるもののことをいいます。民法上では、相続人が亡くなった時点での財産が相続財産となるため、死亡後に受け取る死亡保険金(受取人が相続人であるもの)などは相続財産とはなりません。しかし、相続税の計算にあたっては、相続人の死亡を原因として相続人が保険金等を受け取ることとなるため、課税対象とされます。

平成27年(2015年)の税制改正では、非居住者における相続税課税範囲の拡大、基礎控除の見直しがありました。実際の相続時、預貯金や不動産などの相続がほとんどなくても、相続税対象者の範囲拡大もあり、高額な死亡保険金を受け取ったときには相続税がかかることがあります。

 

みなし相続財産の代表例

みなし相続財産の代表例が、生命保険の死亡保険金、そして死亡退職金です。

死亡保険金が民法上の相続財産にならないのは、保険契約を結ぶことで保険金を受け取る権利が発生するものの、相続時に被相続人から相続するものではないため。ただし、保険金の受取は、被相続人が保険料を負担していたことによるものですので、みなし相続財産となります。

死亡退職金がみなし相続財産になる理由も同様です。死亡退職金はそもそも、被相続人が在職中に亡くなったとき、遺族に対して会社から支払われる金額。亡くなった時点では支給されませんが、被相続人が在職中の労務の対価として支給されるものですのでみなし相続財産となります。

相続税の課税対象とならないもの

ここまでみなし相続財産とされるものを紹介してきましたが、財産のようなものでも、相続税の課税対象とならないものがあります。

たとえば、墓石や仏壇など、宗教上の理由で使われているものです。骨董品として価値の大きいものを除き課税されることはありません。また、被相続人に対するお悔み(弔慰金など)も相続税の課税対象とはなりません。

弔慰金に関しては、業務上死亡した場合は給与の3年分、業務上でない場合は給与の半年分まで非課税対象となりますが、常識的な範囲を超えるような高額な弔慰金は課税対象になります。

また、被相続人が交通事故などで亡くなり損害賠償が発生した場合も、あくまで受け取り人は遺族であることから相続税の課税対象とはなりません。

このように、相続を受ける人が不利にならないように、相続税上の課税対象となるもの、ならないものがあります。

 

みなし相続財産の代表例「死亡保険金」

みなし相続財産の代表例が、生命保険の死亡保険金です。死亡保険の内容や額によっては、相続税がかかることがあります。

死亡保険金は契約内容によって決まる

被相続人が生命保険の契約をしていた場合でも、全てのケースで相続税のみなし相続財産とカウントされる訳ではありません。契約内容によって、相続税以外の所得税、贈与税に該当することがあります。
具体的には次のようになります。

被保険者 保険料の支払者 保険金受取人
相続税の対象となるもの A A B
所得税の対象となるもの A B B
贈与税の対象となるもの A B C

相続税の対象となるのは、被保険者と保険料の支払者が同一の場合です。例えば、被保険者と保険料支払者が夫で受取人が妻、または被保険者と支払者が父で受取人が子というケースが考えられます。

被相続人の死亡を原因として、保険料を支払っていない相続人が死亡保険金を受け取ることとなるため、相続税の課税対象になります。

所得税対象になるのは、保険料の支払者と死亡保険金受取人が同じ場合で、一時所得となります。

そして贈与税のケースが、被保険者、保険料の支払者、死亡保険金受取人がバラバラの場合です。被保険者が亡くなったことで保険金が支払われますが、被保険者が払い込んだ保険料でもなければ、受取人が払い込んだものでもありません。第三者である保険料の支払者が受け取り人に間接的に支払うことから贈与税対象になります。

相続税の死亡保険金受取には非課税枠がある

死亡保険金が相続税に該当するケースを知ったところで、実際の死亡保険金の相続について考えてみましょう。死亡保険金の相続で知っておきたいのは、死亡保険金の非課税枠です。ある一定額までは非課税枠により、受け取った死亡保険金から控除して相続税を計算することができます。

(死亡保険金の非課税枠の計算方法)
500万円 × 法定相続人の数

法定相続人の数によって非課税枠が変わるのがポイントです。妻1人子2人が法定相続人だった場合の死亡保険金非課税枠を考えてみましょう。

500万円 × 3人 = 1,500万円

この場合、1,500万円までの死亡保険金が非課税となります。受取人で指定されていた妻が死亡保険金として1,000万円受け取った場合、非課税枠は1,500万円なので生命保険に対する相続税はかかりません。

なお、受取人以外が相続を放棄する場合も、死亡保険金の非課税の計算においては法定相続人の人数として数えます。しかし、受取人が相続放棄をすると死亡保険金の非課税枠を利用できないので注意しましょう。

みなし相続財産の代表例「死亡退職金」

死亡保険金と並んで知っておきたいみなし相続財産である死亡退職金の対象と計算方法を解説します。

みなし相続財産になる死亡退職金とは

死亡退職金とは、被相続人に支給されるはずだった退職手当金などに準じる給与のことを指します。ただし、みなし相続財産にカウントされるのは、一定期間以内に支給が確定したものについてです。

・被相続人が死亡して3年以内に確定した死亡退職金
・被相続人が生前に退職した会社から支払われる退職金のうち、被相続人の死亡後3年以内に支給額が確定したもの

このように被相続人が死亡して3年以内が相続税のみなし相続財産になります。通常、退職金の支払いは、退職後速やかに支給されるものなので、3年を超えても支払われないことはまずないですが、3年を超えると遺族の一時所得となり、相続税の非課税枠は適用されません。

退職金の支払いは会社の規定に従ったものになるため、同族会社などでない限り思うようにはいきませんが、節税を考えるなら被相続人死亡から3年以内に退職金を受け取るのがよさそうです。

なお、死亡退職金は現金だけでなく現物支給として受けた場合も対象です。死亡退職金を換金性の高いもので受け取った場合も注意しましょう。

死亡退職金の非課税枠

死亡退職金には、死亡保険金のように非課税枠があります。非課税枠の計算方法は以下の通りです。

500万円 × 法定相続人の数

計算方法は先にご紹介した死亡保険金の非課税枠と同様です。妻1人、子2人の計3人が法定相続人の場合、1,500万円(500万円×3人)までの死亡保険金が非課税対象となります。

上記の例だと、死亡退職金の額が1,000万円であれば死亡退職金に対して相続税はかからないということ。
なお、法定相続人の数え方も死亡保険金と同じで、法定相続人に相続放棄者がいても非課税枠の法定相続人の数に含めることができます。

それでは、死亡退職金を相続人で分けた場合はどうなるでしょう。4,000万円の死亡退職金を妻2,000万円と子2人が1,000万円ずつ分けたときで考えてみましょう。(子のうち1人は相続放棄)

死亡保険金非課税枠は、1,500万円(500万円×3人)。

(それぞれの非課税額)
妻 1,500万円 × 2,000万円 ÷ (2,000万円 + 1,000万円) = 1,000万円
子A 1,500万円 × 1,000万円 ÷ (2,000万円 + 1,000万円) = 500万円
子B 相続放棄をしたので非課税枠はなし

(相続税の課税額に算入される額)
妻 2,000万円 – 1,000万円 = 1,000万円
子A 1,000万円 – 500万円 = 500万円
子B 1,000万円 – 0円 = 1,000万円

 

相続税のみなし相続財産のあれこれ

相続税とみなし相続財産について、注意点や知っておきたいポイントをまとめました。

年金はみなし相続財産に含まれる?

年金のように定期的に支払われる定期金は、国民年金や厚生年金などの公的なものを除いて、みなし相続財産になると紹介しました。これは年金の受給権が、被相続人から相続を受けた人に異動することが理由です。

それでは未支給年金の扱いはどうなるのでしょうか。未支給年金とは、被相続人死亡までの間に払われていない年金のこと。国民年金や厚生年金は後払いで、2ヶ月に1回の支給となるためどうしても未支給分が発生してしまいます。

しかし、年金の未払いという事実があっても、年金を受け取るべき本人は亡くなっています。この場合、未支給分については配偶者など遺族が請求可能です。ただし、あくまで請求するのは遺族。遺族の受け取る権利であるため、相続財産には該当しません。

その代わり、遺族には一時所得という形での課税の可能性があります。一時所得は、年間50万円の特別控除があり、特別控除を差し引いた額の半分が課税対象です。だいたい未支給分は2ヶ月程度で高額にはならないので、そこまで心配する必要はないでしょう。

みなし相続財産は遺留分に該当する?

相続人には、財産が不当に集中しないように、法律で定められた一定の遺産を相続する権利である遺留分があります。みなし相続財産でも、遺産分割できるものであれば遺留分に含まれます。

一方で、受取人が明確に決まっている死亡保険金については、受取人の権利になるため、遺留分の請求対象にはなりません。つまり、死後に特定の誰かに現金として財産を遺したい場合は死亡保険金が有効といえます。

ただし、例外もあり必ずしも遺留分の減額対象にならないとは限らないようです。ある判例では、被相続人の財産がほとんどない場合で、死亡保険金により特定の相続人だけ高額な額を受け取れたケースがありました。このケースでは、1人の相続人と他の相続人との差が極端であり、不公平だということで遺留分が認められています。

ただし、このように遺留分が認められるケースは稀で、原則死亡保険金が遺留分の請求対象になることはありません。

相続放棄をしてもみなし相続財産は相続税がかかる可能性がある

相続放棄をすると、負債も含めて一切の財産を相続する権利がなくなります。しかし、これは民法上の相続財産の話。民法上は相続財産にならない、みなし相続財産の相続は別です。相続放棄をしてもみなし相続財産は受け取ることができます。

たとえば、死亡保険金の受取人であれば、相続放棄をしても問題なく受け取りが可能です。

みなし相続財産は相続税の課税対象となるため、相続放棄をしていても、みなし相続財産があるときは相続税が発生することがあります。
相続放棄したから相続税はかからない、と安易に判断しないように注意しましょう。

 

まとめ

みなし相続財産である死亡保険金や死亡退職金について解説しました。相続放棄があると少し複雑になります。誤った申告をしないように、よくわからないときは税理士などの専門家に依頼しましょう。みんなの相続相談・大阪では、さまざまな相続の疑問にお答えします。