相続人に対する売渡請求のリスクや注意点について

株式は会社や株主にとって、大事な財産。 それまで株を所有していた人が亡くなると株も遺産として受け継がれていきますが、その相続人が会社の存続にとって好ましくない人物である場合は、大き … 続きを読む 相続人に対する売渡請求のリスクや注意点について

この記事は約5分で読み終わります。

株式は会社や株主にとって、大事な財産。

それまで株を所有していた人が亡くなると株も遺産として受け継がれていきますが、その相続人が会社の存続にとって好ましくない人物である場合は、大きな問題となってしまいます。

会社の存続を危うくしてしまう相続を回避することができる「売渡請求」の制度について、詳しく解説していきましょう。

そもそも売渡請求とは?

「売渡請求」とは会社法第174条に規定される、相続によって会社の株式の譲渡を受けた人に対して、会社に株を売り渡すことを請求できる制度のこと。この制度を利用することで特に恩恵が得られるのは、特定の株主だけで運営している同族会社でしょう。

こういった会社は株主同士の結束が固く、それゆえに他企業などの不当な干渉を受けずに運営が安全に守られています。

経営権に問題が生じる量の株式を取締役会の承認なしでは譲渡できないように、譲渡制限株式として設定するなどの対策をしていることが多いのです。しかし、株主の死亡による相続に関しては、その制限が適用できません。

そのため株主の死亡によって複数の相続人に株式が譲渡されてしまうと、役員が会社経営を維持するだけの株を保有できなくなるという恐れがあります。株主が適正な相続人を定めずに急逝してしまった場合は、特に危険です。

会社に対して全く知識がない相続人が口を出して、会社運営をめちゃくちゃにするかもしれません。ライバル会社の影響下にある好ましくない人物が株主に就任するリスクもあって、会社の存続自体が危険にさらされる可能性もあるのです。

株式は会社にとって大事な資金調達の手段ですが、一般個人にとっては遺贈されて受け継がれるべき財産です。財産の相続は故人の遺志に基づくものですから、本来会社はどんなに不条理でも、相続を受け入れるしかありません。

ですが売渡請求の条項をあらかじめ約款に盛り込んでおけば、相続人に対して会社に株式を売り渡すよう請求し、必要な株式を会社が確保することが可能になります。
売渡請求をうけた相続人は、株主総会でこの請求にかかわる議決権を行使することができません。

相続人の同意は必要とせずに、株式の分散や悪質な乗っ取りを防ぐことができるので、売渡請求は健全な会社運営を守るために非常に有効な手段なのです。

これは株主死亡による相続だけでなく、合併や会社分割などの一般承継に対しても効力を発揮する、かなり利用価値の高い制度。

非上場会社が自社株を取得する場合は最高税率50%の課税がされますが、相続人から取得するのであれば一律20%の譲渡所得税で済むので、税制上の恩典も高いのです。

売渡請求の条件

ただし、全てにおいて会社が優先されるというわけではありません。

相続人にとっての財産権は法で保障されていますので、売渡請求に関しても次のような条件を満たすことと規定されています。

・売渡請求ができる株式は、会社の存続のためにあらかじめ指定した譲渡制限株式のみに限られる
・会社にとっては自己株式の取得にあたるため、手続き開始には株主総会の特別決議を必要とする
・自社株の買取りのため財源規制の対象となり、分配可能利益の範囲内の金額でしか買取りができない
・相続があったことを知った日から、1年以内だけしか買取請求ができない。

売渡請求は思い立ったらすぐにできるというものではなく、あらかじめ取締役に根回しし、取締役会を開催するなどの手間や時間がかかります。

しかも、1年以内という時間制限があります。せっかく売渡請求の条項を約款に設けておいても、万が一の相続に対して備えていなくては、会社を守ることはできません。会社設立から年数が経過するほど株式が分散し、株主が亡くなったことや相続人の人定事項を把握しにくくなるものです。

相続によるリスクがある会社の場合は売渡請求の条件を十分理解して、万が一の事態に備えておきましょう。

売渡請求による価格の決定について

相続人の財産権も守らなくてはいけないと考えれば、売渡請求で買取る株式がどれぐらいの価格になるのかも気になるところでしょう。

売渡請求によって会社が取得できる株式の売買価格は、会社と相続人のお互いの協議によって、妥当な価格ラインで決めるのが原則です。売渡請求は会社からの一方的な手続きだと思われがちですが、終結には会社と相続人との充分な話し合いが必要だといえるでしょう。

もちろん、従来の株主だけで会社運営をしたいと考えていても、会社にとって買取りが損失となってしまうのでは本末転倒です。相続人が適正な価格での売買に応じず、売値を不当に釣り上げて対抗するのでは会社としても困りものですが、相続人の言いなりになる必要はありません。

価格面で合意に至らない場合には、裁判所へ価格の決定を申し立てて仲裁に入ってもらうこともできます。ただしこういった仲裁の申し立てにも、時間制限が設けられているので要注意。

裁判所への手続きの期限は売渡請求の日から20日以内に限られていますので、手続きがスムーズに進むよう、こちらもあらかじめ備えておくことが大切です。

まとめ

固い結束で設立された会社の幹部は、相続が起きても問題なく運営が続くものと思い込みがちです。ですが、会社の運営はとてもシビアなもの。長い年月のなかでは、故人の遺志どおりにいかない相続はよくあることです。

売渡請求はそんな不意な事態に備える、大事な制度。
売渡請求についてよく理解して、会社存続のリスクマネジメントを万全にしておきましょう。