学費や結婚費用が相続に響く!?生前贈与と特別受益の関係

結婚費用や学費を親から受け取る場合もあると思いますが、このような生前贈与が特別受益とみなされ、相続時のトラブルになることがあります。相続で知っておきたい、特別受益について計算方法も … 続きを読む 学費や結婚費用が相続に響く!?生前贈与と特別受益の関係

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結婚費用や学費を親から受け取る場合もあると思いますが、このような生前贈与が特別受益とみなされ、相続時のトラブルになることがあります。相続で知っておきたい、特別受益について計算方法も合わせて解説します。

特別受益とは?生前贈与で知っておきたいこと

遺産相続で知っておきたいことの1つが、特別受益です。たとえば、相続人がすべて子でA、B、Cの3人いたとします。被相続人(亡くなった人)の生前にAのみ住宅購入資金として1,000万円贈与を受けた場合でも、原則相続時の計算は平等です。6,000万円の相続があれば2,000万円ずつの相続になります。

しかし、このように相続時で計算してしまうとAだけ1,000万円得するので公平ではありません。そこで認められるのが特別受益です。生前贈与や死因贈与、遺贈(遺言による財産)によって得た財産である特別受益は、公平を保つために相続時に考慮されることとなります。

なお、特別受益では生前贈与も多いため、特別受益=生前贈与と考えがちです。しかし、生前贈与がすべて特別受益になるわけではありませんし、特別受益には死因贈与や遺贈も含まれるため注意しましょう。

それでは、特別受益に該当する贈与について確認していきましょう。

特別受益になるもの 1.結婚等に関する贈与

結婚または養子縁組の支度金、持参金を被相続人が負担した分は特別受益となります。たとえば、結婚の持参金として親に200万円用意してもらった場合などです。

ただ一方で、結婚に関わる費用でも挙式や結納金については特別受益になりません。同じような贈与でも扱いが違うので注意しましょう。

また、結婚祝いなど少額を贈るケースもあるかと思いますが、少額の贈与や生活費のための少額の援助は特別受益にあたりません。結婚祝い金などいちいち計算に含めていたら計算が大変なことになります。結婚等に関する費用は、特別受益として認められるものがかなり限定される点に注意しましょう。

特別受益になるもの2.学費の贈与

現代社会では高校までは当たり前に進学することが多いため、特別受益に該当する可能性があるのは大学に進学したときの費用です。ただし、兄弟がみな大学に行った場合は同じような状況なので、特別受益として認められない可能性があります。

しかし、兄弟のうち1人だけ多額の学費がかかるような学部に進学したり、私立大学に進学したりした場合は特別受益として認められる可能性が高いです。他にも、1人だけ留学した場合など、留学の費用が特別受益になるケースがあります。兄弟のうち、1人だけ高額な学費を負担してもらった場合は特別受益に注意したいです。

特別受益になるもの3.不動産等に関する贈与

マイホーム購入や増改築のために特定の相続人だけ高額の費用を負担してもらった場合は、特別受益になります。紹介した費用の中でも不動産に関わる贈与は高額になるケースも多いので、特別受益に認められるのは大きいです。

なお、不動産に関わる贈与で注意したいのは、特別受益の対象となるのが金銭による負担のみでないこと。無償で利用できる権利、たとえば被相続人が購入した土地や住宅をタダで使っている場合、相続の対象となった住宅に家賃分の負担もなしにタダで被相続人と住んでいた場合も特別受益になることです。

無償で利用する権利があった場合は、家賃相当額分を特別受益として計上します。被相続人との同居などで、将来相続できる財産が減る可能性がある点に注意しましょう。

特別受益になるもの4.生命保険等に関する贈与

原則生命保険は特別受益にはなりませんが、死亡保険金の受け取りによって、他の相続人と受け取る財産に大きな差が生じた場合は特別受益となります。たとえば相続できる財産が500万円程度しかないのに対し、特定の相続人のみ死亡保険金によって2,000万円得ていては不公平です。

基本的に生命保険は受取人を指定するために特別受益にはなりませんが、上記のように相続する財産に大きな差が出た場合は特別受益になる可能性があります。このほかの死亡退職金などの死因贈与の一部も、生命保険などのように不公平な相続になれば特別受益の対象です。

生前贈与などで特別受益と認められる範囲

特別受益に該当する財産と該当しない財産があるように、特別受益が適用される人と適用されない人がいます。生前贈与などの特別受益が認められる範囲を確認しましょう。

特別受益が認められるのは相続人に対して

特別受益はすべての贈与に該当するわけではありません。特別受益が認められるのは、相続人(推定相続人)に対してのみです。たとえば、被相続人が生前に知人に対して多額の贈与をした場合は、相続人には当てはまらない、まったくの他人になるため特別受益にはなりません。

それではどのようなケースで特別受益が認められる、または認められないのか、相続人が被相続人の子A、子B(相続時にはすでに死亡、代襲相続人は孫のD)、子Cだった場合でいくつかのケースをみてみましょう。

1) 生前、被相続人が兄弟に多額の贈与をしたとき
→被相続人の兄弟は、相続人(推定相続人)ではないので特別受益にならない。

2)子Bの生前、被相続人が孫Dに贈与したとき
→当時、孫は相続人ではなかったため原則特別受益にならない。

3)子B死後、被相続人が孫Dに贈与したとき
→贈与当時、孫は代襲相続人となっているため特別受益になる。

基本的に上記の考え方で問題ないですが、孫への結婚支度金のための費用、相続人の扶養義務が果たされず孫の学費を負担した場合などは特別受益と認められることがあります。状況によって、特別受益の範囲は異なるので専門家に確認してもらった方がより安心でしょう。

特別受益にあたる期間は?時効はある?

特別受益は、生前贈与から死因贈与、遺贈まで被相続人から贈与を受けた財産とすべての期間が対象です。そのためか、相続が確定してから特別受益の存在が判明することがあります。

もし、特別受益にできるのが相続から1年など期間に限りがあるとトラブルのもと。そのため、特別受益には時効は設定されていません。たとえ、相続から10年、20年と月日が経っていたとしても、特別受益があれば、持戻しといって特別受益分を戻して計算しなおすことができます。

生前贈与による特別受益があったときの計算方法

生前贈与などで特別受益があった場合、特別受益の分を考慮して相続分を計算すると紹介しました。このように、特別受益分を相続分に含めることを持戻しといいます。具体的な計算方法を2つの例で確認してみましょう。

1) 相続人は子A、子B、子Cの3人で法定相続に従い相続するものとする。
なお、相続時の財産は5,000万円で、子Aは生前贈与により1,000万円の特別受益があった。
5,000万円(相続時の財産) + 1,000万円(特別受益) = 6,000万円(みなし財産)
6,000万円(みなし財産) ÷ 3(法定相続分) = 2,000万円(本来の相続額)
子A 2,000万円(本来の相続額) - 1,000万円(特別受益) = 1,000万円
子B 2,000万円
子C 2,000万円

2) 相続人は子A、子B、子Cの3人で法定相続に従い相続するものとする。
なお、相続時の財産は5,000万円で、子Aは生前贈与により4,000万円の特別受益があった。
5,000万円(相続時の財産) + 4,000万円(特別受益) = 9,000万円(みなし財産)
9,000万円(みなし財産) ÷ 3(法定相続分) = 3,000万円(本来の相続額)
子A 3,000万円(本来の相続額) - 4,000万円(特別受益) = -1,000万円
子B 3,000万円
子C 3,000万円
子Bと子Cは相続時の財産2,500万円と子Aから500万円ずつ受け取る。

このように、特別受益分はみなし財産として持戻して計算します。

 

生前贈与の特別受益があっても持戻しできないことがある

生前贈与など特別受益があるケースで、被相続人による持戻し免除の意思があっても持戻ししなければならないケースを紹介します。

 

持戻しができないケース

特別受益の持戻しは、対象の生前贈与であれば必ずできるわけではありません。たとえば、以下のように持戻しできない場合があります。

・相続人が1人しかいない
・他の相続人が持戻し請求をしていない
・遺産分割が遺言によって指定されている
・特別受益のある人が相続放棄をした
・相続した財産がマイナスである

相続人が1人しかいない場合はもちろん、特別受益は自動的に適用されるものではないため、他の相続人が請求しないと持戻しはしません。また、特別受益を受けた人が相続放棄をした場合、相続人には該当しなくなるため、特別受益の条件を満たさなくなります。相続を受けない分、特別受益の部分は守れるということです。

そして、注意したいのがマイナスの財産は特別受益が適用されないということ。特別受益を持戻してマイナス分を相続人で平等に分けることができません。

またこの他にも、特別受益は被相続人が遺言などで持戻しをしない意思表示をすれば原則請求できないことになっています。病気や事業継承など理由がある場合は、意思表示をしておくとより安心です。

持戻しと遺留分

持戻しができないケースとして、被相続人が持戻しをしない意思表示をするケースを紹介しましたが、遺留分によっては特別受益の持戻しになることがあります。

遺留分とは、配偶者、直系卑属(子や孫)、二順である直系尊属(親)のうち、法定相続人に認められている権利のこと。法定相続のうち半分が遺留分となり、遺言により相続する財産が減ってしまっても、遺留分が認められる法定相続人であれば、遺留分請求によって財産の一部を取り戻せることがあります。

特別受益に対してもこの遺留分は有効で、特別受益が遺留分を侵害している場合は、遺留分を考慮して特別受益を持戻し、遺産分割を確定していかなくてはなりません。

(関連記事)相続の遺留分を理解し、正しい遺産分割を行うために

遺留分があったときの計算は?

被相続人の持戻しなしの意思があったときで、相続人が子A、子B、子Cの3人だった場合、遺留分と特別受益はどのように計算するべきなのでしょうか。2つのケースでみていきましょう。

1) みなし財産が3,000万円、うち2,000万円が子Aの特別受益だったとき
3,000万円 ÷ 3(法定相続分) = 1,000万円
法定相続で分けたときの遺産は、各1,000万円。
1,000万円 ÷ 2 = 500万円(子Bと子Cの遺留分)
500万円 + 500万円 = 1,000万円(子Bと子Cの遺留分合計)
3,000万円(みなし財産) - 1,000(遺留分合計) = 2,000万円
2,000万円までなら遺留分侵害にあたらないので、子Aの特別受益はそのまま認められます。

2) みなし財産が0円、Aの特別受益が1,500万円だったとき
相続財産が0円なので、特別受益を財産として考える。
1,500万円(特別受益=みなし財産) ÷ 3(法定相続分) = 500万円
法定相続で分けたときの遺産は、各500万円。
500万円 ÷ 2 = 250万円(子Bと子Cの遺留分)
250万円 + 250万円 = 500万円(子Bと子Cの遺留分合計)
特別受益が、合計500万円の遺留分を侵害しているので、子Aは子Bと子Cに対して遺留分である250万円ずつを支払わなくてはなりません。

 

生前贈与の特別受益は自動的には評価されない

生前贈与などの特別受益を持戻しできないケースとして、他の相続人が特別受益分を請求していないときを紹介しました。このように、特別受益の持戻しは他の相続人が主張しないと自動的に評価されることはありません。

反対に、相続される遺産に不公平感を抱いており、特別受益を請求したい場合は、遺産分割調停など遺産分割時に主張する必要があります。

特別受益のトラブルを回避するには

生前贈与による特別受益は、被相続人の意図しないところで相続争いの火種になってしまいます。「1人だけずるくないか」「不公平ではないか」といった感情からトラブルに発展しやすいです。

もちろん、特別受益について他の相続人が存在を知っていても主張しないケースもありますが、特別受益のある人が病気の場合や親の介護を引き受けた場合など、特別なケースであることも少なくないでしょう。

トラブルに発展しやすい特別受益の問題を解決するには、贈与契約書を作成しておくことが大切です。また、遺言を作成しておくなど特別受益によって相続人の一部が不公平とならないように工夫する必要もあるでしょう。

 

まとめ

生前贈与などの特別受益によって、相続人によっては相続時に受け取れる相続分が減ることがあります。特別受益の請求がある場合は、特別受益とそうでないものを正しく分けることが大切。特別受益の判断に迷ったら専門家に相談してみましょう。

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