民法(相続法)の改正で相続のルールはこう変わる!

民法(相続法)の改正等によって、2019年1月から段階的に相続に関するルールが大きく変わります。どのように変わるのでしょうか?生前贈与、遺言書の作成や遺産分割で影響をすることもたく … 続きを読む 民法(相続法)の改正で相続のルールはこう変わる!

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民法(相続法)の改正等によって、2019年1月から段階的に相続に関するルールが大きく変わります。どのように変わるのでしょうか?生前贈与、遺言書の作成や遺産分割で影響をすることもたくさんあります。今回は主な改正内容について概要を解説します。

 

1.配偶者居住権、配偶者短期居住権が新設されます

配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に居住していたときは、遺産分割で配偶者居住権を取得することで、無償でその後も居住することができるようになります。

配偶者居住権は、所有権とは別に新たに創設された財産的な権利で、登記されるものです。

これにより、被相続人が所有していた建物の所有権は配偶者以外の相続人が遺産分割により取得し、配偶者は配偶者居住権を取得するという相続の形ができるようになります。

なお、配偶者居住権は相続税の課税対象となります。この建物の所有権の評価は、配偶者居住権の負担があるものとして行うこととなります(所有権単独の評価よりも低い評価となります)。

配偶者短期居住権は、配偶者居住権と名前がよく似ていますが、性質はまったく異なるものです。配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に無償で居住していたときは、その建物がどのように遺産分割されるかのかかわらず、最低6か月間は引き続き居住することができる、というものです。配偶者短期居住権は、相続税の課税対象とはなりません。

これらは、相続後も、配偶者が住居に困ることのないように配偶者の居住権の保護の観点から創設されました。2020年4月1日以後の相続から適用されます。

 

2.婚姻期間20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等があったときの持戻しが不要に!

婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用不動産を贈与したときの贈与税の特例も設けられており、そのような贈与はよく行われます。

しかし、このような場合、民法上は、原則として遺産の先渡し(特別受益)を受けたものとして取り扱われていました。相続があった場合は、特別受益を考慮して遺産分割が行われることとなり、結果的に配偶者が最終的に取得する財産額は、贈与等がなかった場合と同じとなることがありました。

これについて改正が行われ、原則として遺産の先渡しを受けたものとして取り扱う必要がなくなりました。

この改正は、2019年7月1日以後の相続から適用されます。

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3.預貯金の払戻し制度が新設されます

これまでは、最高裁の判例に基づき、預貯金について、遺産分割が終わるまでは、相続人が単独で払戻しを受けることができませんでした。このため、葬儀費用や生活費などの支払で資金が必要な場合でも、払戻しを受けることができず、不都合が生じていました。

今回の改正で、最大150万円を限度として、預貯金の一定割合までは、家庭裁判所の判断を経なくても、相続人が単独で払戻しを受けることができるようになりました。また、預貯金に限って、家庭裁判所の仮分割の仮処分の要件が緩和されることとなりました。

 

この改正は2019年7月1日以後に預貯金債権が行使されるときに適用されます。

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4.自筆証書遺言の要件が緩和されます

従来、自筆証書遺言の方式で遺言書を作成するには、遺言書の全文を自書する必要がありました。今回の改正で自筆証書遺言の方式が緩和され、遺言書に添付する財産目録については自書しなくてもよいこととされました。これにより、財産目録については、パソコンで作成したり、通帳や登記事項証明書のコピーを添付するなどの方法で財産を特定して作成することができます。ただし、この場合には、財産目録の全ページに遺言者が署名・押印をする必要があります。

財産が多い方、高齢の方などは全文を自書して遺言書を作成することが難しい場合がありましたが、今回の改正により、自筆証書遺言の方式での遺言書の作成がしやすくなりました。

この改正は、2019年1月13日以後の自筆証書遺言から適用されます。

 

5.自筆証書遺言の保管制度が新設されます

民法改正ではありませんが、いわゆる遺言書保管法が制定され、2020年7月10日より、新たに法務局における自筆証書遺言の保管制度が創設されます。

2020年7月10日以降は、この制度を利用して、作成した自筆証書遺言(遺言書)について、法務局に対して保管の申請を行い、保管しておくことができます。

相続人等は、遺言者の死亡後に、遺言書保管所で、遺言書が保管されているかどうかを調べたり、遺言書の写しの交付の請求や閲覧をすることができます。この場合、家庭裁判所での遺言の検認手続は必要なくなります。

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6.遺留分制度が見直しされます

遺留分を侵害された者は、遺贈等を受けた者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払の請求(遺留分侵害額請求権)をすることができるようになります。また、金銭を直ちに支払うことができない場合には、裁判所対して、支払期限の猶予を求めることができるようになります。

従来は、遺留分減殺請求を受けたとき、不動産の共有持分を与えたり、非上場株式の株式の一部を与えたりすることがありましたが、結果として権利関係が複雑になったり、円滑な事業承継を困難にするという弊害が出ていました。今回の改正で、原則として金銭債権化されたことによって、共有関係が当然に生じることを回避することができるようになりました。

この改正は、2019年7月1日以後の相続から適用されます。

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7.特別の寄与の制度が新設されます

相続人以外の親族が、被相続人の療養看護等を無償で行っていた場合で一定の要件に該当するとき、相続人に対して、金銭の支払(特別寄与料)を請求することができるようになりました。

なお、特別寄与料を受け取った人(特別寄与者)は、特別寄与料の額に相当する金額を被相続人から遺贈により取得したものとみなして、相続税が課税されることとなります。相続税の申告が必要となる場合、特別寄与者は、当該事由が生じたことを知った日から10か月以内に相続税の申告書を提出する必要があります。

一方、相続人が支払う特別寄与料は、その相続人の相続財産から控除して、相続税を計算することとなります。これにより相続税額が減少する場合、相続人は4か月以内に更正の請求をする必要があります。

この改正は、2019年7月1日以後の相続から適用されます。

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まとめ

相続に関するルールの改正について解説しました。今回の改正は時代の変化に合わせて行われたもので、このような大きな改正は昭和55年から行われていなかったようです。より使いやすくなった相続に関する新しいルールをぜひ理解しておいてください。